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トヨタにエールを送る [思想と科学]

アメリカは今トヨタ祭り。TV のニュースではバンクーバーオリンピックよりも扱いが大きく、今日は日本からやって来た日本法人の社長と北米トヨタの社長が出席して下院の公聴会が開かれていた。
ことの発端はアクセルペダルが戻らなくなってクルマが加速し続け、その結果乗っていた三人の家族全員が亡くなるという事故が大きく取り上げられたことだった。この事故の原因とされているフロアマットとアクセルペダルの構造上の問題に関してはリコール措置が取られているが、その後類似その他の事例について報告が相次ぎ、トヨタ車全体の安全性について疑問が投げかけられるという事態に発展している。その他の事例というのは、クルマがドライバーの意思に反して急加速するとか、プリウスを始めとするハイブリッド車でブレーキがすっぽ抜ける(ブレーキが一瞬効かなくなる)という現象だ。急加速するのは事実とすればもちろん問題で検証が待たれるが、ここではブレーキすっぽ抜け現象について考えてみたい。個人的にはトヨタは、というかトヨタのクルマはあまり好きではないのだが、この件については一技術者として思うところがある。

さて、ブレーキすっぽ抜けとはどんな現象なのか。いくつか聞いた限りでは、ブレーキペダルを踏んでいるにも関わらず一瞬ブレーキが効かなくなって空走することがあり、それがもとで停止位置の目測が狂い前のクルマに追突しそうになった、あるいは本当に追突してしまった、ということらしい。原因を考えてみよう。
ハイブリッド車は二系統のブレーキを備えている。ブレーキの踏み始めでは第一の系統として「回生ブレーキ」が働く。回生ブレーキは従来のように摩擦力でタイヤを制動するのではなく、タイヤを発電機に繋ぐことによって発生する抵抗で制動を行う。これによりクルマの運動エネルギーが電力として回収できる。次に加速が必要なときにこの電力でモーターを回せば、エンジンの負荷が減って燃費が向上するというわけだ。トヨタのハイブリッドシステムではモーターだけで、つまりエンジンを停止した状態で走ることもできる。その場合は一切ガソリンを消費しないことから、回生ブレーキによる燃費向上効果は明らかだ。
とは言え、ハイブリッド車は従来のブレーキも備えている。これが二番目の系統だ。発電機ではタイヤがある程度回転していないと制動力を得られないので、車速が落ちてくると制動力の発生源は回生ブレーキから従来のブレーキにバトンタッチされる。ただしドライバーとしては一定のブレーキ踏力で一定の減速加速度が得られることを期待するので、ブレーキの踏み始めから停止までの間、回生ブレーキと従来型ブレーキの切り替えが分からないように、つまり減速加速度がスムーズにつながるように制御しなければならない。実際にどのような制御をしているかは分からないが、まあ普通に考えると回生ブレーキを徐々に緩め、その分従来型ブレーキを徐々に強くして両者の合計減速加速度が一定値になるよう電子的に制御しているのではないかと思う。
さてさて、ここでややこしい問題がある。最近のクルマには ABS がついている。ABS は回生ブレーキ、従来型ブレーキの両方を制御するのだろうか?それをやると大変複雑になってしまう上に回生ブレーキの反応速度が ABS の制動オンオフに追従できるほど速いとも思えない(ABS のオンオフ周期については、ABS を作動させたことのある人なら結構高速なことを知っていると思う。俺のクルマだと目見当で 20~50Hz くらいだと思う)。従って、ABS が作動するような状況では回生ブレーキを切り離し、従来型ブレーキだけで制動するように出来ているのではないだろうか。そもそも ABS が作動する状況というのは危険回避が最優先される非常事態なわけで、エネルギーの回収よりも確実な制動が優先される局面だ。
この予想が正しいとすれば、ブレーキすっぽ抜け現象の原因は容易に想像がつく。回生ブレーキの作動中に ABS が作動して急に通常ブレーキに切り替わる、そのタイムラグが「すっぽ抜け」の正体だろう。雨の日のマンホールや横断歩道の白線なんかは結構滑りやすい。ブレーキングの途中でマンホールを踏めば、一輪だけ微妙にロックして ABS が作動するだろう。その瞬間、一瞬ブレーキがすっぽ抜けるというわけだ。

長々とブレーキについて書いてきたのは、ハイブリッド車のブレーキは従来ほど単純なものではなく、そこに制御が介在していることを理解してもらいたいからだ。ブレーキというのは安全の要であり、高度な信頼性が求められる。言ってみればクルマの命綱だ。安全を保証しなくてはならない自動車メーカーにとっては、なるべく保守的な設計としたい部分だろう。しかしトヨタはハイブリッドシステムにおいて果敢にもそこに手を入れ、少なくとも彼らの試験条件においては信頼に足る設計を行い、10年以上前に世界で初めてハイブリッド車の市販にこぎつけた。それを実現したのは、燃費を飛躍的に向上させた画期的なクルマを作りたいという思いだ。もちろんそこには商売上の戦略や思惑があるにせよ、技術者の思いは上に書いたことそのものであると信じる。

トヨタのクルマづくりは保守的と言われる。それがまさに俺がトヨタ車をあまり好まない要因なのだが、ハイブリッド車の開発はこの面で全くトヨタらしくない。もちろん安全性を犠牲にしても良いとは全く思わないが、実使用状態で試験では考えもしなかった状況が起こるというのはよくある話だ。100%の試験などあり得ない。保守的な考え方では、なんだかよく分からないからやめておこう、となるはずだが、ハイブリッド車の開発に関しては、よく分からないにせよなんとしてもモノにしようと挑戦を続けている。この果敢な挑戦は、俺としては何よりも高く評価したいと思う
今回、不幸にも設計のアラ(と思われる現象)が露呈してしまったが、トヨタの技術者にはぜひこれを克服してほしい。

頑張れトヨタ。

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